土偶との遭遇

ユーラシア大陸の旧石器時代・後期の女性小像
Female Figurines of the Upper Paleolithic

カレン・ダイアン・ジャネットによる解説 ; 過去の諸説について

Conclusion

結び


後期旧石器時代に作られたビーナスと通称される小像は、極めて異質の工芸品であり、その異質なゆえに多くの解釈がされている。

一般大衆は、こういった女性小像は皆、小さな、石のいささか肉感的な、若しくは妊婦の裸像で、顔の造作がなく、腕とあしのあるものと思っているようだ。
確かに、ヴィルレンドルフのヴィーナス Venus of Willendorfについてみれば、この見方は正しいが、小像全体としては、決して正しい見方ではない。

小像全体としてみれば、2cmから40cmを超えるもの寸法のものがあるし、持ち運びに適したものから据え付けられたものまである。
一見しただけで肥満したものか妊婦と思われるもの以外に、小さい乳房、若しくは乳房のない、脂肪がついていない、若くて、思春期前の女性・少女と思われるような小像も多くある。
又、石彫のものだけでなく、象牙、骨、土器製の物さえある。

そして、最も大きな相違点は、小像の製作された年代である。小像は、2000年にわたって作り続けられた。

四肢や着衣のない旧石器時代の非写実的と思われる、ビーナス像と呼ばれる女性小像は、象徴的な目的のためのものであったという証拠であると云われ続けてきたが、多くの着衣の小像、そして、すべてが揃った像があることで、この説が必ずしも正しいとはいえないようだ。

この報文では、Gravettian グラヴェット文化期の女性の像に限って検討してきたが、勿論、そのような小像が、この時代の擬人化された像のすべてではない。

女性の像が圧倒的に多いのは確かだが、動物や男性、それ以外の擬人的な像も発掘されている。

最も肉感的な例によって代表される、表される異種の種類の工芸品のような工芸品についてよりも、むしろ、解説者のほうがより多く語られている。

ビーナスと通称される女性小像については、この選好は、形態学的、原材料、製造技術、時間的且つ地域的な拡がりにおいて、驚くべき多様性を示している。

ビーナスと通称される女性小像の目的や意味を説明しようと試みた数多くの説は、女性小像の多様性と全く同様に多様なものである。
これらの説は、1890年代から現在まで、数多く発表されているが、研究者の間では、未だに、完全な合意に達した説は、一つとしてない。


それらの一つ一つの説は、その研究者の個人的な世界観と同時に、彼等が生きた時代の歴史的、或いは、社会的−政治的な情勢と密接に関係している。

人種差別主義の支持は、19世紀の化学者社会にも蔓延した傾向であり、このために、女性小像は、後期氷河時代に欧州にアフリカ人種が居住したとの具体的な表現であるとされた。

1900年代初期の男性研究者は、女性小像を旧石器時代の男性が作ったエロティック、或いは豊穣の象徴と解釈した。

1960年から1970年代に、ウーマンリブ運動が始まると、女性研究者の力がまし、それまで主流だった、こういった人種差別主義や性差別主義者の説をひっくり返した。


こういった動きによって、ビーナスと通称される女性小像の焦点は、その創作や用途についても女性の領域に換わり、女性人権運動のイメージキャラクターとして重用されることとなった。

旧石器時代の大地母神、そして強権的な男性神の先駆者としてもてはやされた女性小像は、深い宗教儀式を表したイメージになった。
もっとも大衆文化においては、大地母神説はもてはやされているが、学術的な世界では、こうした説は納得できないものとされ、「芸術の為の芸術」説から豊穣や女性の力の象徴を表す人形という解釈まで、多様な説が発表され続けている。

最も最近の傾向としては、研究者は、こうした工芸品の一部だけに注目し、そして、最新の研究手法や技術を活用する。
こうした新しい研究は、時に、過去の諸説の考えを覆すことに成功することがある。


女性小像の本当の意味を明らかにすることは、絶対に出来ないことは明白であるが、それでも、我々は今までの様々な説やこれからも必ず発表されるであろう解釈検討し続けるであろう。


然し、Marcia-Anne Dobresマルシアーアン・ドブレが、McDermottマクダーモットの報文に対して、なされたコメント−議論は尽くされた、最早、新説は現れない−は、正しいのかもしれない。
ビーナス女性小像と云われている考古学的遺物の意味やその機能に関して過去、数世紀にわたって提案され続けてきた数多くの諸説よりも、先史時代の目視できる像の多義の性質に関する、より良い議論・論拠はありえないであろう。


PS. 参考文献等については、原典を参照ください。


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