土偶との遭遇

ユーラシア大陸の旧石器時代・後期の女性小像
Female Figurines of the Upper Paleolithic

カレン・ダイアン・ジャネットによる解説 ; 過去の諸説について

第二章 その二 大地母神、最高女神説以外の諸説

こうした、女神、多産、そして、母性の賛美の理論とは裏腹に、同時代の多くの研究者が違う解釈、女性小像の意味をもっと限定したものに解釈している。このような解釈は、一般に学術的に信頼できるものであり、第三章で示される多くの最近の解釈の基礎となった。


* Patricia Rice パトリシア・ライス

ライスは、大地母神説から離れ、女性小像を、母親のみならず、あらゆる年代の女性の像と考える。

彼女は、ビーナスは、成人女性の全年代を表すもので、従って、一般に、女性そのものであり、単に、多産を特別に表すものではなく、象徴的に認められ且つ、評価されるものであると主張する。

ライスは、「現存する188体のビーナス小像」を観察し、身体の特徴により、四つのカテゴリーに分類した: 1)prereproductive妊娠可能前、若年期、2)生殖可能で、妊婦、3)生殖可能だが、妊婦ではないもの、4)閉塞期、(1981年)。

ライスは、次に、年齢のはっきりしたグループの女性小像の割合と、同じような年齢層の狩猟採集者の年令割合とを比較し、それらが似た分布を示しているかどうかを確かめた(1981年)。その結果、ライスはビーナスの最も大きなグループは、妊娠していない成人女性を表しており(1981年)、そして、狩猟採集者の女性の最も多い者は、いつでも、妊娠していない成人女性であることを発見し、この二つの事実から、ビーナス小像は、女性という存在のすべての面を表しており、単なる、母親という一面のみを写したものではないと結論した(1981年)。

ついで、ライスは、女性の数え切れぬほどの像が作られたのは、女性が旧石器時代を通じて、その集団に必要な食物の主たる供給源であり、家を守るものであり、、、その社会の結束の象徴であり、命を与えるもの、と重要視されてたのが、その理由だとする。

ライスは、小像の製作者が誰だったのかは明確に述べてはいないが、先史時代の文化は、こうした生命活動の貢献者、即ち、女性を、その小像を彫刻により、賛美することで、より刺激され、そして、同じく、こうして造られた小像は、旧石器時代の社会全体に対する女性の貢献を示すものとして機能したと述べている(1981年)。

研究者たちは、ライスの女性小像の分類には、しっかりした基準がないと指摘しているものの、それまでの単純な多産の神秘や極端な女神神話などは持ち出さずに、何とか、宗教的な概念を盛り込んでいるといえるだろう。


*Bruce Dickson ブルース・ディクソン

ライスを含めた、既存の文献を通覧した後で、Bruce Dickson ブルース・ディクソンは、考古学の記録に現れた女性小像の頻度が、後期旧石器時代の宗教的な領域での女性の重要性と比例するとした(1990年)。

ディキンソンは、女性が、男性と全く同じようなスタイルで、墓に葬られた時に、女性が、男性と同じような社会的地位になったと云っている(1990年)。
彼は、更に続けて、この時代の芸術・アートは、産出・生産の社会的な行為・進行を繁殖させることを象徴するような神聖な規範を反映していて、又、性行為の二重性と補完性はその社会の社会的且つ経済的な持続に欠くべからざるものであると主張する(1990年)。
彼の説は、女性の持つ社会的な役割と旧石器時代の精神的な・宗教的な世界の観念の中での女性の機能・役割についてよく考えられている。女性小像を神秘的な要素と関連付けている説は、女神説に比べると依然、より多くの支持をうるものではなかったが、こうした女性小像の実用的な且つ機能的な目的を探求するために、併行して、検討されていた。


二十世紀の研究者の多くにとって、必ずしも論理的であるというわけではないが、旧石器時代を通じて、女性の表現は何らかの神秘的・宗教的要素を持っているように思われる。

Wymerは、「性器の彫刻」や「ヴィーナス像が妊婦である」事実から、そういった神秘的な要素があると証明されると考えている。繁殖や神秘や儀式に関する説は女性小像を、複合した儀式の一部と見ることに、非常に密接につながっているしているが、一方この説に反対する、同時代の人たちもいる。


* Evan Haringham エバン・ハリンガム

エバンは、その著書、Secret of the Ice Age:The World of the Cave Artistsで、大地母神説は、あまりに極端で、事実無根であると書いている。

彼は、もっとありそうな解釈としては、もっと他の、思いつきの偶像崇拝・迷信とか民間信仰の観点からのもっとより軽い意味、例えば、幸運をもたらすお守り的なものではないかと示唆している。

   

Evan Hadingham published his first book on early aviation as a teenager. He then developed a strong interest in archaeology and acquired a master’s degree in Prehistory and Archaeology from Sheffield University in England. His feature articles on the archaeology of Egypt, China, Greece, and the Americas have appeared in magazines like The Atlantic Monthly, Smithsonian, Discover, and Reader’s Digest. His books include Lines to the Mountain Gods, Early Man and the Cosmos, Secrets of the Ice Age, and The Fighting Triplanes.
In 1986, Hadingham was a Macy Fellow in Broadcast Journalism at WGBH-TV in Boston and became the Science Editor for NOVA in 1988. From 1995-1998, Hadingham was the Co-Executive Producer for the Discovery Channel’s series, Discover Magazine. Returning to NOVA in 1998 as Senior Science Editor, Hadingham resumed responsibility for the science content of all NOVA’s original documentaries and co-productions. He is involved at every step from development through final script writing. Among the shows he has produced for NOVA are Search for the First Americans, Who Killed the Red Baron? and Decoding Nazi Secrets.


繁殖や異常な肥満、そして、女神以外の、解釈としては、成人儀式用のもの(Ucko,1968年)、人形(Zamiatnine,1984年)、魔女(Ronen,1976年)、侵入者を追い払う守り神的なもの(Waechter,1976年)などがある。安産のお守り説(Augusta,1960年)、子供の玩具説(Ucko,1968年)、男性のお守り説(Russell,1998年)。これらの説は、いずれも、大地母神説から脱却して、旧石器時代の社会における基本的且つ実用的な目的を調べようとするものである。


* John Halverson ジョン・ハルバーソン

ハルバーソンは、Art for Art's Sake 芸術のための芸術説を唱えた。

1987年に、Current Anthropology誌は、ハルバーソンの投稿を掲載したが、その中で、彼は、「旧石器時代の工芸品は通常の言葉の意味では、何の意味もない、宗教上も、神話上も、霊的な関連性も、神秘的な意味もなく、実用的な目的も持っていないもの」であり、認知発達の初期段階やイメージの抽象的再現のはしりと解釈すべきであると言う(1987年)。

何か、未知の象徴的な目的を創造しようとするものではなく、哲学に云う「自己目的的な」ものであり、一種の遊びで、具体的に云うと「何らかの概念や意味の象徴の自由な表現」といった行為である。従って、こうしたものは、普通に、旧石器時代の芸術で、単に、芸術のための芸術であるとでもすべきものである(1987年)。

彼は、その投稿の最初のページで、大多数の研究者が言っていることに、全く反対の説を述べている。

彼は、女性小像が繁殖や女らしさや力などの象徴ではなく、実際は、何の意味もない、単に、旧石器時代の人たちが、実験的に、そうした彫り物が造れる技術を示した例であるという。
ハルバーソンは、こうした彫り物をする前、更に昔に、石斧の使用があったとする。
こうした芸術の最初は、丸彫りの三次元彫像であり、彫刻技術の発達は、彫像表現の初期的な形である(1987年)。
こうした削って形を作ることから始まって、順次、高浮き彫り、薄浮き彫り、彫刻が始まり、最後には、絵画へと進んでいった。こうした順序で物事が進んでゆくのであれば、技術と知識が供に並列で進化して行ったといえよう。

ハルバーソンは、彼の理論によって、人類の思想の歴史を、旧石器時代の芸術の起源について検討し、旧石器時代の人類は進歩の過程にある人間の思想にあたる、原始の精神を持っていたとする。
彼は、最も初期の具象描写されたイメージは、先ず第一に、動物を書き表したものであったろうと考る。そして、続いて、そうしたものが持つ意味が拡張され、そして、何か別のものにと移し変えられていったと考える(1987年)。

ハルバーソンは、女性小像を何ものかの象徴、呪文やまじない、宗教的なものとする説は疑わしいとした。というのも、彼が極めて重要なものと考えている、人間思想が発達する上で、極めて重要な段階である、こうした初期の像を楽しむこと、それ自体、造る楽しみ、そして、見る楽しみということが欠けていると考えたからである(1987年)。

勿論、学界は、彼のこのような説に驚きを覚え、猛烈な反論をくわえたものの、ハルバーソンは、旧石器時代の工芸品、特に女性小像の研究において一つの新しい方向性をもたらしたものと、評価される。

女性小像から、象徴性や宗教性をすべて除いて考えようとする、彼の試みは、最近になって、研究者たちが、より複雑な、より広範囲な、寄せ集めの背景を持つ説を展開しようとするとき、その前段、前置き、前提として採用されている。

第二章完



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