縄文の逸品 (16)  怪異 大地母神


「縄文時代の人々が土偶や土器によって表して崇めていた女神も矢張り、死者たちの行く他界を支配している女神でもあった。そしてその他界そのものもまた。その女神と同一視されていたいたのだと思われる。
なぜなら人間の暮らしに必要なあらゆるものを、自分の体から生み出してくれると信じられていた、その女神は明らかに、大地そのものを母神として神格化した存在だった。それだから当時の人々の信仰では、地下に埋葬される死者達の行く他界は当然、その母神の体内に他ならず、女神の支配する領域であると同時にまた。女神自身でもあると見なされていたに、ちがいないと思われるからだ。
縄文宗教の母神はだから、---、自分の身体を分断されたり、焼かれて無残に傷められ、果ては殺されるような目にあいながら、作物や火を初め人間の暮らしに欠かせないさまざまなものを、ふんだんに体から生み出しては与えてくれる、本当に恵み深く有り難い女神だった。だがその反面で、その同じ母神はまた、人間をはじめとする、生きとし生けるものすべて、生み出しておきながら、容赦なく殺しては、自分の腹の中にまた呑みこんでしまう、死の女神としての不気味で恐ろしい相貌を持っていたのだ。
縄文時代の人たちは、彼らが信仰した母神が持っていた、このようにあらゆる生きものを殺しては、腹に呑みこむ、まるで貪欲な人食いを思わせるような、不気味な相貌にも、土偶の形で表現を与えていたのだと思われる。」

                       「縄文宗教の謎」 吉田敦彦  63 死の女神を表した土偶より



後期・茨城県・立石遺跡16.5cmH



「縄文時代の終わりの時期に作られた土偶の中には、女神のそのまるで人食いを思わせるような不気味さと恐ろしさを、とりわけ迫真的に表現していると思われるものがある。
−−−中略−−−、体内は容器のように、空洞になっている。神奈川県足柄上郡大井町の中屋敷発見された、この形の土偶の体内には、赤ん坊の骨が入っていた。また胴体につけられた文様は、死者の行く他界にほかならぬこの女神の子宮と、そこに至るための道を表しているように見える。」

                           
 「縄文宗教の謎」 吉田敦彦 64 土偶の体内にあった赤子の骨より





晩期・長野県・腰越遺跡        晩期末・神奈川県・中屋敷遺跡


他にも考えられるのであろうが、神話学者・吉田敦彦氏の解釈が説得力がある。










このように、母神に取って食われるようにして殺されて、その体内に呑み込まれることは、恐ろしいことである反面、その体内は、取りも直さず、万物が生み出される大地母神の子宮であると見なし、取り込まれた死者は又新しく胎児となって再生されると信じていたにちがいない。

縄文時代の平均寿命は、約30才と言われている。特に、出産時の死亡率、幼児の死亡率が高かったことからこういった信仰が生まれたのであろう。



又、縄文の地母神のこうした二面性、神が当然持つ性質、所詮、人間では計り知ることが出来ないカミの性質は、昔話の山姥としても現れる。

一般に、山姥は、人をとって食う妖怪として恐れられる存在だが、その一方、殺されるとその死体から、薬や高価なヤニ、あるいは金銭等の良いものが生じたり出現することがあり、また、蛙に変身した山姥が蛇に食われるのを助けてやったり、出産で苦しんでいる時に助けてやると恩返しをしてくれるカミとして物語れている。







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